獣の奏者 闘蛇編・王獣編【読書感想・あらすじ】上橋菜穂子著書

『守り人シリーズ』の上橋菜穂子著書のファンタジー小説。
決して人に馴れぬ孤高の獣に向かって、竪琴を奏でる娘___。
こんな光景と『ミツバチ・飼育・生産の実際と蜜源植物』という本にヒントを得て作られた本書。
文庫本全4巻+外伝1巻の長編ファンタジー小説ですが、『1.闘蛇編』『2.王獣編』で一旦、完結するので(3巻以降は続編的な話)今回はここまでの感想・あらすじを紹介します。
※後半ネタバレを含みます。

スポンサーリンク

あらすじ(内容紹介)

王国の矛盾を背負い、兵器として育成される凶暴な蛇――闘蛇。
各界で話題騒然!傑作ファンタジー巨編、ついに文庫化。
リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが――。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける!
(Amazonより引用『1.闘蛇編』)

王権の象徴として、神々が遣わしたとされる聖なる獣――王獣。
数々の受賞に輝く世界的注目作家、新たなる代表作。

カザルム学舎で獣ノ医術を学び始めたエリンは、傷ついた王獣の子リランに出会う。決して人に馴れない、また馴らしてはいけない聖なる獣・王獣と心を通わせあう術を見いだしてしまったエリンは、やがて王国の命運を左右する戦いに巻き込まれていく――。新たなる時代を刻む、日本ファンタジー界の金字塔。
(Amazonより引用『2.王獣編』)

舞台はリョザ神王国という異世界。
神々の山脈から降臨されたとされる真王(ヨジエ)の一族が治める真王領と外敵から真王領を守るために山向こうの土地を任された大公(アルハン)が治める大公領の主に2つ地域からなります。
大公(アルハン)はその昔、真王から外敵から国を守るために「闘蛇の笛」という神宝を授かり闘蛇という獰猛な獣を馬のように従えて、代々圧倒的な力を持って外敵を撃破してきました。
故に大公領にとって闘蛇は大変重要な戦力でした・・・。

主人公の少女エリンは大公領で暮らしてます。
父はすでに亡くなっており、母のソヨンは不思議な力を持つという「霧の民」で腕の良い獣ノ医術師。闘蛇衆の棟梁の息子と結婚したことにより、現在は「牙」と呼ばれるエース級の闘蛇の飼育を任されていました。

しかしある日、10頭の「牙」を一晩で全て死なせてしまいます。母はすべての責任を負わされ、野生の闘蛇に食い殺されるというむごいやり方で処刑されてしまいす。母を助けようとして同じく闘蛇の食い殺されそうになったエリンは母の不思議な力に助けられて何とか逃げ出します。

九死に一生を得てたどり着いたのは真王領の端の地域。蜂飼いのジョウンに助けられます。身寄りのないエリンは蜂の飼育を手伝いながらジョウンと暮らすことになります。
大自然で暮らす中、自然と生物について興味を持ち始めるエリン。
特に深い峡谷で崖から落ちたジョウンを助けた際に偶然目撃した野生の王獣の親子については大きく関心を持ちます。

しばらくは穏やかな生活が続きますが、ジョウンが息子に諭されて王都に行くことになります。エリンは王都に行くことを拒み、ジョウンの友人がエサルが教導師長を務める王獣の保護場に行き、獣ノ医術師を目指すことを決意します。

この辺からエリンの運命が少しずつ動いていきます。

王獣は闘蛇の天敵として強大な力を持ち、決して人に馴れない孤高の獣___。
エリンはそれまでの「王獣の笛(音無しの笛)」で王獣を動けなくして世話をするというやり方に違和感を覚え、独自のやり方で王獣と接していきます。怪我を負い、食事もせずに命の危険に晒されていた幼獣リランにジョウンと暮らしていた頃に遭遇した野生の王獣の親子の生態をヒントに「音無しの笛」を使わずに、竪琴の音で何とか心を通わせるよう試行錯誤していくのですが・・・。

明らかに昔から定められている王獣規範に反するやり方なので周囲に反対されることもありますが、一歩も引かずにあくまでも独自の方法で幼獣リランと接するエリン・・・。

そしてとうとう幼獣リラと竪琴の音で意思疎通することに成功します。しかし、そのことにより国を左右する事件に巻き込まれていきます。

詳細は是非、本書をお読みください(^^)

最強の戦士や天才軍師が活躍したり、魔法が飛び交うような物語ではありませんが、「王獣」「闘蛇」__。

国の命運を握るほどの大きな影響力を持つ獣たちと、獣たちと心を通わせようとする純粋な少女が中心の読み応えのある長編ファンタジーです。

※ここから先はネタバレを含みます。

獣の奏者の世界についておさらい

真王(ヨジエ)と大公(アルハン)

その昔、同族の争いにより滅びかけていた国がありました。その国を神々の山脈から降臨してきた真王の祖(王祖)が決して人に慣れないとされる王獣を従えて救いました。人々は争いが終わってからも王祖にこの土地にとどまってくれるよう懇願し、王祖はこの地に残ることになりました。王祖は国の礎を一から築き上げることになります。これが本書『獣の奏者』の舞台になるリョザ神王国のはじまりです。

長い間、おだやかに時が過ぎましたが、四代目の王の時に隣国から戦争を仕掛けられます。当時の真王は争いを良しとせず、自らの首を差し出そうとします。その時に真王を思いとどまらせたのがヤマン・ハサルという男。
ヤマン・ハサルはこの国を守るために闘蛇を操ることのできる「闘蛇の笛」を与えてほしいと懇願します。そして戦争が終わった後は穢れた身で王都に住むことは許されないので領外で暮らすと進言します。
「闘蛇の笛」を使い、闘蛇の軍隊をつくったヤマン・ハサルは見事、隣国を撃破します。そして約束通り、王都には帰らずに領外に暮らすことに・・・。
リョザ神王国では血で穢れた人間は決して死後、「神々の安らぐ世(天国のようなもの?)」に行けないとされてました。真王は人のために自ら穢れ役を担ったヤマン・ハサルを徳とし、民を救うために流す血であれば穢れとせず、「神々の安らぐ世」に行けるように計らいました。また大公(アルハン)の称号を与え、山向こうの土地を治めることを許しました。

これが真王(ヨジエ)と大公(アルハン)のあらましとされています。
なんか日本の古事記や日本書紀の話のようですね(^^;)
本書の時代においても真王領が王都で政を行い、大公領が地方で外敵から国を守る役目を担っています。
エリンは大公領の闘蛇衆(闘蛇の育成をする場所)で育ち、後に真王領の端に流れ着くわけです。

王獣と闘蛇

■王獣


岩棚をすっぽり覆うほどの大きな翼と白銀に輝く針のような体毛、狼のような精悍な顔、鋭い爪をもった大きな足・・・。
ロン、ロン、ロンと竪琴を鳴らすような音を出すこともあります。(親子同士で意思疎通をするときに用いられる?)
「神々が真王に王権を授ける印として天界から遣わせた」といわれ、聖獣として王獣保護場で育成されています。野生の王獣と違い、空を飛ぶことは無く、体色もくすんでいます。また子どもを産むことがありません。

決して人に馴れることがなく、戦闘に駆り出されることもありません(術がありません)。孤高の生物とされているので通常なら近づくことも難しく、王獣保護場では音無しの笛で一定期間身体の自由を奪って世話をします。育てる際には肉などの食物と併せて特滋水という獣の滋養になる成分を溶かした水を与えます。王獣の育成は極めてデリケートで王獣規範というものがあり、それに則り厳密に行われます。

真王に献上するため野生の王獣を捕まえ、保護場で育てる・・・。
そんなことを繰り返しているうちにどんどん数が減り、絶滅の危機にあります。
闘蛇の唯一の天敵でもあります。闘蛇は王獣を見ると無抵抗になり、王獣は無抵抗になった闘蛇を容赦なく食べます。

■闘蛇


鋭い爪の生えた前脚と後脚があり、地上に這い上がって駆けだせば、その速さはどんな駿馬にも勝ります。
地上で駆ける姿は竜にも似てますが通常は水中で暮らしており、足を腹の下にぴったりつけて泳ぐ様は蛇に似ていることから闘蛇と呼ばれます。

闘蛇の世話をする闘蛇衆が闘蛇の産卵時期を狙い、いくつか卵を採ってきます。その卵を孵化させて幼体であるうちに耳の部分の蓋のような鱗を一部切り取ります。
闘蛇も人に馴れることはないので「音無しの笛」で操るために耳を覆うことができないようにするためです。また王獣と同じく育成には特滋水を用います。
一旦、角を掴み背にまたがってしまえば闘蛇は意のままに動かせることができるので王獣と違い、戦争の際の貴重な戦力として重宝されてきました。

しかし唯一の天敵、王獣の前では無抵抗となります。ただ今のところ王獣を戦闘に用いる術がないので戦争においては闘蛇衆が無敵の軍隊となります。

エリンの父は闘蛇衆の棟梁の息子で(本書ではすでに死んでいる)母は闘蛇の中でも身体が大きく戦争の際、特に重宝される「牙」とよばれる闘蛇を担当する獣ノ医術師。
ですのでエリンは子どもの頃から比較的、闘蛇と近い距離で育ったと言えます。

「血と穢れ」と「堅き盾」

■血と穢れ

先述した真王と大公の関係に軋みができたことによりできた集団。
大公は山向こうの地方を統べていましたが多くの闘蛇を育てて軍事力を強化し、他国を撃破していくに連れて領土を増やし富を蓄えていきます。一方の真王の統べる王都はすべての裁きの最終判断、政を担ってますが軍事力は持っていません。また山がちな土地柄、裕福とは言えずに大公領からの供物に頼っているところもあります。

このように権威と権力が分かれてしまい軋みが生じていきます。数世代にわたって民を守るために血で穢れた大公の臣民たちは、気位だけ高く何もしてこなかった真王の官僚たちに不満を募らせていました。
この不満から生まれた集団が「血と穢れ」です。
「血と穢れ」は真王こそ国を分裂させ、発展を滞らせる元凶とみなし、真王を暗殺し大公を王座につけようとしている集団です。

■堅き盾

兵を持たない真王が「血と穢れ」の出現により、畏敬の念だけでは命を守れないと悟り、臣下の中から武芸に優れ、忠義に厚いもの選び守らせたのがはじまりです。

今では真王とその子孫を守るためだけに生きる「生きた盾」として、いざという時は自らを盾として死ぬことを義務付けられている孤独の武人ことを指します。弱みを持たぬため家族とは縁を切り、結婚もできません。

しかし「堅き盾」に入ることができれば家族には大金が支払われ、自身も貴族と同じ扱いを受けることができます。

霧の民(アーリョ)

本来は戒めを守るもの(アォーロゥ)という意味が聞き間違いで世間では霧の民と呼ばれるようになりました。背が高く緑色の瞳を持ち、外見からすぐ霧の民と判断がつきます。
一定の場所に住まずに旅をしながら暮らし、医術に優れ、本来の意味の「戒めを守る」通り、何やら昔起こった過ちを繰り返さないために一族以外と結婚しない等、閉鎖的で厳しい掟を守りながら生活する不思議な一族です。

エリンの母ソヨンは霧の民出身で闘蛇衆であるエリンの父との結婚を機に一族を抜けました。エリンも一目見てわかるほど霧の民の血を強く受け継いでいます。

本書の見どころと感想

主人公エリンと王獣リランとの交流

エリンは獣ノ医術師をしていた母の影響のせいか元々、生き物に興味があったようです。
母の処刑の場所から逃げ出した際、流れ着いた場所で偶然、助けてくれた蜂飼いのジョウンと暮らすようになってから、さらに拍車がかかります。

蜂の生態については勿論のこと、実はジョウンは元王都の名門学舎の教導師長という経緯もあり、エリンに幅広い学問の知識を教えていきます。
「今は落ちぶれているが且つては有能な指導者にたまたま見い出され、成長する主人公」的な、よくあるパターンですね(^^;)
ジョウンは学問だけでなくエリンが耳が良いことに気づき竪琴についても教えていきます。またエリンは遭遇した王獣の親子が竪琴の音のような音を発して交流していることに気づきます。
このことは今後の大きな伏線となります。

ジョウンが息子の勧めてで王都に戻ることになった際、エリンは王獣保護場で学ぶことを志願します。ジョウンの古くからの友人エサルが教導師長をやっているカザルムの王獣保護場で試験を受け、優秀な成績で合格します。
カザルムの王獣保護場は傷物になった王獣を死ぬまで世話をする場所。エリンは「野生の王獣を見た」ことはあるという理由から怪我をした幼獣リランの世話を任されることになります。

リランは保護場に来てからというもの何故か食事を摂らず、このままでは半月程度で死ぬかもしれないという危険な状態。
王獣規範を知らないエリンは「音無しの笛」で王獣を痺れさせながら育成を行う方針に疑問を抱き、独自の考えでリランに接します。
「王獣は人に馴れない孤高の存在」という概念を打ち破り、周囲の反対も押し切り「音無しの笛」を使わずに以前、野生の王獣の親子たちがやっていたように竪琴のような音で交流しようとします。

・・・ここでジョウンから教えてもらった竪琴の知識が役に立ちます(^^;)

そしてとうとうエリンと竪琴を使って少しずつ意思疎通ができるようになります。

『獣の奏者』というタイトルの通り、竪琴を演奏し獣と会話をする少女の姿を著者を描きたかったのでしょうね。
一人の少女が真摯に王獣と向き合い、今まで不可能と言われていた王獣と心を通わすことができるまでの経緯。そして心を通わせるよになってからも自分でも驚くほど意思疎通ができるようになったり、時には人と獣の壁を感じたり・・・
こんなエリンと王獣リランの関係は本書の見どころの一つであることは間違いないところでしょう。

常識を覆した主人公の運命と歴史の真実

エリンと王獣のピュアな交流も見どころの一つですが、エリンが「王獣は人に馴れない」という常識を覆したことで自身の運命を大きく変えます。
現在、最強と言われる軍隊は闘蛇衆です。しかし闘蛇は王獣が天敵です。王獣の前ではなす術もなくやられてしまいます。
ただ王獣を人が操る術がなく、また意図的に繁殖させるのも不可能とされてきたので今までは王獣が軍事利用されることはありませんでした。

しかしエリンはその常識を覆し王獣と心を通わせることに成功しています。これが何を意味することなのかはエリン本人をはじめ、教導師長のエサルも良く理解していて、出来るだけエリンと王獣の関係を国に隠そうとするのですが・・・。

そして、そもそも保護された王獣が「空を飛ばない」「子どもを産まない」「人に馴れない」のは王獣規範にある育成方法に問題があるのではないかとエリン達は気づき始めます。
王獣規範をつくったのは初代真王です。

初代真王には王獣を退化させなければいけない理由があったのか?語り継がれる話では「滅びかけた国を王獣を従えて救った」ことになってますが実際はどうだったのか?霧の民たちが言っている「昔、起こった過ち」と何か関係があるのか・・・。

真相は是非、本書をお読みください(^^)

まとめ

最初の場面が重たすぎて・・・。
暗い話かと思いましたが中盤までは少女と王獣の交流が中心。この辺りはファンタジー小説というより動物博愛もの小説の様(^^;)

しかし中盤以降は王獣が戦争の道具になり得て、国の運命を揺るがす大きな事件に発展していくストーリーはファンタジーの王道を感じさせます。
一旦、エンディングを迎えてますが続きも楽しみです(^^)

続巻は読了後、改めて記事にさせていただきます。

以上、獣の奏者 闘蛇編・王獣編【読書感想・あらすじ】上橋菜穂子著書でした(^^)

スポンサーリンク

スポンサーリンク