萩原規子が贈る、日本史・日本の神話をモチーフにした勾玉シリーズ3部作。
神話の時代から人々の時代へ___。
『空色勾玉』『白鳥異伝』のおさらいと最終巻となる『薄紅天女』のレビューです。
歴史好き、ファンタジー好きの方は必読です(^^)
内容紹介(勾玉3部作)
あらすじ(空色勾玉)
国家統一を計る輝の大御神とそれに抵抗する闇の一族との戦いが繰り広げられている古代日本の「豊葦原」。ある日突然自分が闇の一族の巫女「水の乙女」であることを告げられた村娘の狭也は、あこがれの輝の宮へ救いを求める。しかしそこで出会ったのは、閉じ込められて夢を見ていた輝の大御神の末子、稚羽矢。「水の乙女」と「風の若子」稚羽矢の出会いで変わる豊葦原の運命は・・・ (Amazonより引用)
あらすじ(白鳥異伝)
双子のように育った遠子と小倶那。だが小倶那は“大蛇の剣”の主となり、勾玉を守る遠子の郷を焼き滅ぼしてしまう。「小倶那はタケルじゃ。忌むべきものじゃ。剣が発動するかぎり、豊葦原のさだめはゆがみ続ける…」大巫女の託宣に、遠子がかためた決意とは…?ヤマトタケル伝説を下敷きに織り上げられた、壮大なファンタジーが幕を開ける!日本のファンタジーの金字塔「勾玉三部作」第二巻。(Amazonより引用)
あらすじ(薄紅天女)
東の坂東の地で、阿高と、同い年の叔父藤太は双子のように十七まで育った。だがある夜、蝦夷たちが来て阿高に告げた…あなたは私たちの巫女、火の女神チキサニの生まれ変わりだ、と。母の面影に惹かれ蝦夷の地へ去った阿高を追う藤太たちが見たものは…?“闇”の女神が地上に残した最後の勾玉を受け継いだ少年の数奇な運命を描く、日本のファンタジーの金字塔「勾玉三部作」第三巻。 (Amazonより引用)
神話の時代から人々の時代へ
勾玉シリーズの第1作目『空色勾玉』は古事記のイザナギとイザナミの話がモチーフとなっており、まだ神々と人間が共存しているかのような世界感。都を統べる照日王と月代王は神の子で不死という設定です。ストーリーの中核には輝の一族と闇の一族の抗争があり、これらはどちらが善と悪というものではなくお互いの価値観の違いに過ぎないという物語でした。
第2作目の『白鳥異伝』はヤマトタケル伝説がモチーフになってます。この頃は都に君臨する帝も不死ではなく、永遠の命を求め勾玉を求めていました。この作品が勾玉に一番スポットが当っているのではないでしょうか。ヒロインは幼馴染を救うため各地に散らばっている勾玉を探す旅に出るという物語でした。
そして今回の『薄紅天女』。史実でいうと奈良時代。桓武天皇、坂上田村麻呂等、実在した人物が登場します。
物語のモチーフになっているのは『更科日記(竹芝伝説)』と『アルテイ伝説』。
私見ではイザナギ・イザナミやヤマトタケル伝説ほどメジャーではない気がします(^^;)
故に他の勾玉2作品に比べ、世界感がイマイチ、ピンとこないところもありますが、史実でいうと坂上田村麻呂が征夷大将軍になる前、蝦夷との闘争を繰り広げている真っ只中の話。
史実に則た話がモチーフになっていることを見ても完全に神々の時代から人々の時代に移り変わったことが伺えます。
物語は繋がっている・・・。
前作の『白鳥異伝』の終盤の舞台は日高見国でした。
日高見国は古代の大和もしくは蝦夷を美化した呼び名なので今回の場合は蝦夷を指すと思います。
また『白鳥異伝』では数多くの勾玉が登場しますが、最後の一つの勾玉『明』だけは見つけることができませんでした。そして本書に登場する勾玉は・・・。
勾玉3部作はそれぞれ時代も異なり、単独で完結している物語ですが、改めて設定を見返すと物語は繫がっているんだな~と壮大な構想を感じます。
『薄紅天女』のレビュー①(世界観を掘り下げる)
ここからは『薄紅天女』のレビューです。
まずは事前に『薄紅天女』の舞台となる奈良時代について復習していきましょう。史実を知らなくても問題なく楽しめますが、簡単におさらいしておいた方が理解度が深まります。
『薄紅天女』で登場する実在した人物
『薄紅天女』は歴史上で実在した人物が登場するのが大きなポイントです。
勿論、フィクションなので史実と完全に人物像が一致する訳ではありませんが、事前に知っておいた方がイメージしやすいと思います。
坂上田村麻呂
征夷大将軍として蝦夷を討伐した人物。京都の清水寺を建てた人としても有名です。
本書ではまだ征夷大将軍になる前で豪傑で野心的な人物として登場します。
物語の全般で登場し、重要な役割を担います。
今上帝 (桓武天皇)
本書での「現・帝」で史実でいう桓武天皇です。史実では蝦夷の征伐を命じた人。都を長岡京から平安京に移して平安時代の幕開けを担った人です。
史実に基づいた人だけあり、過去の2作品の帝に比べて人間っぽいです(^^;)
藤原仲成(薬子)
史実ではとても評判の悪い人物。天皇に気に入られた妹・薬子の威を借り、朝廷内でも暴虐な振る舞いを繰り返していたといいます。本書では薬子が男装して仲成を名乗っているという設定になってます。史実ほど悪い設定ではありませんが、一応、悪役か(^^;)
安殿親王・賀美野皇子
後の平城天皇と嵯峨天皇ですね。奈良時代と平安時代の間を生きた兄弟です。本書では兄の安殿親王は病弱で床に伏せており、弟の賀美野皇子は本が好きな小さな子供として登場します。
空海・最澄
言わずとしれた日本の仏教に大きな影響を与えたご両人。史実でもご活躍されていた時期が本書の時代設定と重なります。ただし、本書では空海・最澄の名前では出てこないので気づかないかもしれないです。登場すると分かって読めば何となく目星はつくと思いますが・・・。
ファンタジー小説なので必ずしも史実通りの設定で登場するわけではないですが、これらの歴史上に実在した人物が、どう物語に絡んでいくのか!?
こちらも『薄紅天女』の魅力の一つだと思います。
蝦夷って?
奈良時代においては朝廷からみて本州の東部(主に東北)の地域に生息し、朝廷に支配下におかれることを拒み、抵抗し続けている民族のことを指します。
蝦夷とは俗称で野蛮な民族という意味があるそうです。
史実では桓武天皇が蝦夷征伐に執着したのは経済面やら軍事方針という説がありますが、『薄紅天女』の世界では勾玉と巫女を探してたという設定になってます。
また史実では苦戦を強いられる朝廷側ですが坂上田村麻呂の活躍により、勝利を収めることができます。また朝廷側を長年、苦しめた蝦夷側の軍事指導者がアテルイでした。
坂上田村麻呂とアテルイは両方とも本書『薄紅天女』に登場します。
蝦夷は本書において前半から中盤までの物語の中心を担います。歴史の教科書でも習うので覚えている方も多いと思いますが、復習のため記載しました(^^;)
薄紅天女のレビュー②(物語を彩る人間ドラマ)
勾玉シリーズでは珍しい?男同士の熱い友情の物語
『勾玉シリーズ』の過去の2作は恋愛要素の強い物語です。活発な女性(ヒロイン)とおとなしい男性(ヒーロー)の組み合わせ。
そして男性側(ヒーロー)が物語が進むに連れて成長していく・・・。これが醍醐味でした。
『薄紅天女』でも勿論、恋愛要素はありますが、物語の序盤から核となるのが主人公の男性2人の絆です。同い年ですが、叔父と甥の関係にあたる阿高と藤太。前作までの男性主人公に比べ序盤から逞しいイメージで描かれます。
お互い憎まれ口をたたき合いながらも、いざという時は己の犠牲も顧みず助け合うという少年漫画のような側面もあるのが本書の特徴です。
恋愛要素はわかりにくい!?
主人公阿高は女性には疎いという設定です。ですので道中にわかりやすい恋愛場面はあまり出てこないのも本書の特徴です。わかりやすい恋愛要素を期待される方は2作目の『白鳥異伝』が良いかもしれません。
本書『薄紅天女』はヒロインが最初から明確ではないというのも特徴ですね。
前の2作品では冒頭からヒロインが登場するので疑いようもないのですが、『薄紅天女』では中々、ヒロインらしき人物が登場せず、過去の例から言うとヒロインは巫女に関連する人物ですが本作ではヒーローの阿高が火の巫女の生まれ変わりという設定なので余計にわかりづらい(^^;)
まとめ
『薄紅天女』は過去の2作品『空色勾玉』『白鳥異伝』に比べ、色んな意味でパターンを変えてきたなという印象を受けました。
萩原規子さんの著書は大体においては10代の女子をターゲットにしていると察しますが、『薄紅天女』は男性でも、感情移入しやすい作品だと思います
史実に基づいた人物も登場するので歴史小説ような感じで読めるのも良いなと感じました。
エンディングも勾玉シリーズ全体の終わり方に相応しいものだと思います。勾玉をめぐる不思議なファンタジーの世界からすっと史実に戻っていく・・・。
そんな印象を受けました。
これで何とか年内に勾玉3部作を読み終えることができました(^^)
『空色勾玉』は1巻完結なのですが『白鳥異伝』『薄紅天女』は上下巻なので、なかなか手がつきませんでした(^^;)
しかし、さすがは名作。一度手に取ると一気に読み進めることができました!
勾玉シリーズはどの巻から読んでも楽しめますが、やはりちょっとした繫がりもあるので『空色勾玉』から順番に読むことを一番、おススメします(^^)
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